- 企業経営を通じて、戦略・組織論やリーダーシップ論、ミッション/ビジョン/バリューなどの議論を重ねるなかで、個人的に関心を抱いているのが、野外令とFM3-0です
- 基礎的な用語・概念理解のため関連図書などを読み進めているのですが、今回は、そんな中で出会い、特に心に残った表現についていくつかご紹介します
- 短歌や俳句のように、限られた文字数で最大限の熱量をシンプルに表現する言葉の技術にも触れることができます
富嶽の重き、率先躬行
指揮官は軍隊指揮の中枢にして、又団結の核心なり。故に常時熾烈なる責任観念及び強固なる意志を以て、其の職責を遂行すると共に、高邁なる徳性を備え、部下と苦楽を倶にし、率先躬行、軍隊の儀表として、其の尊信を受け、剣電弾雨の間に立ち、勇猛沈著、部下をして仰ぎて富嶽の重きを感ぜしめざるべからず。
作戦要務令 綱領第10、1938年公布
為さざると遅疑するとは指揮官の最も戒むべき所とす。是此の両者の軍隊を危殆の陥らしむること其の方法を誤るよりも甚しきものあればなり。
- 部下をして仰ぎて富嶽の重きを感ぜしめざるべからず。
- ”富獄(富士山)のような崇高さと威厳を感じさせなければならない”
- 「富獄の重き」という表現は、司馬遼太郎の『燃えよ剣』でも登場する
- 富士山の雄大さと揺るがぬ重み、これを四文字で比喩するなんとも日本人らしい良い表現だとは思いませんか?そしてそれを法令に織り込むよい仕事
- 現在の陸自の野外令と野外幕僚勤務は、旧陸軍の作戦要務令と、米陸軍のField Manuals 3-0: Operationsを参考に制定された
- 作戦要務令 (wiki) / 作戦要務令 (兵法抜粋)
- DRI 平成30年度研究論文報告集
- 類似の表現に、「仰いで御稜威(みつい)の尊厳を感銘せしむる処なり」というものもあるが、こちらは祖国・母国より、国体を強く意識している
率先垂範
私は、幹部自衛官に任命されたことを光栄とし、重責を自覚し、幹部自衛官たるの徳操のかん養と技能の修練に努め、率先垂範職務の遂行にあたり、もつて部隊団結の核心となることを誓います。
自衛隊法施行規則 第42条(幹部自衛官の服務の宣誓)
- 率先躬行(そっせん・きゅうこう)
- 陸曹以上の心構えで、「人の先に立って、自ら物事を実行すること」(プレイヤー)
- 類語:実践躬行
- 率先垂範(そっせん・すいはん)
- 陸尉以上の心構えで、「人の先頭に立って物事を行い、模範を示すこと」(マネージャー、指導者)
- 類語:率先励行
- プレイヤーと指導者、部員と部長、職級(階級)に応じて求められる在り方の違いを端的に四文字熟語で表現し、言葉を使い分けている繊細さに味を感じます
指揮統帥の脈絡、必通の信念
通信科の隊員は、その重大な使命を自覚し、最新の通信電子技術に関する識能を備え、旺盛な責任感と必通の信念を堅持し、創意を尽くしてその職務を遂行しなければならない。また、常に相互の意思を疎通し、通信規律を厳正にし、機材の尊重愛護に努めることが必要である。
通信科精神
通信兵の本領は戦役の全期にわたり、指揮統帥の脈絡を形成し、戦闘力統合の骨格となり、もって全軍戦捷の途を拓くにあり。ゆえに通信兵は常に相互の意志を疎通し、特有の技術に成熟し周密にして機敏、耐忍にして沈着、進んで任務を遂行し全軍の犠牲たるべき気迫を堅持しもってその本領を完うせざるべからず。通信兵は常に兵器及び材料を尊重し、整備節用に勉め馬を愛護しまた特に防諜に留意すべし。
通信兵操典 綱領 第11、1943年公布
- どちらも「通信」に従事するもの(インフラエンジニア)に要求される心構えですが、ミッション・クリティカルなインフラのダウンタイムゼロを目指すといった言い回しをしなくても、「必通の信念」の五文字で表現
- さらになぜ通信が大事なのかを、「指揮の命脈」(指揮統帥の脈絡)で端的に表す見事
「即動必通」