去年読み終わった本ですが、書感を記しておきます。
この本は、ロンドン大で経済学修士取得後、1985年にソロモンに入社し、最盛期から崩壊期にかけて、ロンドンオフィスで3年間債券セールスを勤め退社した著者による作品です。
ぼくは、ちょうど2008年のリストラ第一波、第二波を経て、年末のボーナス告知の時期に、マーケットが閑散として暇だったので自分のデスクで本書を読了したのですが、「100年に一度の経済危機などといわれているが、つい30年前にも、まったく同じような思いをした人たちがいて、その時にも、2008年の今と同じプロセスでリストラが行われ、またソロモン・ブラザーズという会社が(原因こそ違うにせよ)つぶれていった」ということを知って、ぜんぜん「中の人」のスタイルは進化してないな、と強く思ったものでした。
ボーナスの告知に社内が浮き足立ち一喜一憂する姿、リストラ宣告の時に対象者が電話で会議室に呼び出され処刑されていくさま、全ては、1985年に著者が経験したときの再現のようでした。平成の当事者として、なんともいえない思いをかみ締めながら、いっきに読み漁りました。
【P.350より引用】
ついにボーナスの日がやってきて、投資家としゃべったら相場をにらんだりする日常の業務から一時的に解放され、ぼくは心をうきうきさせた。査定説明の面接から戻ってくるひとりひとりの顔を観察していると、千回の講義を聴くよりも切実に、このちっぽけな社会におけるカネの意味を学ぶことができた。
自分の口座がどれだけ潤ったか知ったときに、人には三通りに反応のしかたがある。
ほっとするか、喜ぶか、怒るか、だ。
ほとんどの人間は、この三つをさまざまに混ぜ合わせた感情をいだく。中には、この三つをリレー式に感じていく者もいる。額を告げられてほっとし、何を買おうか考えて喜び、同僚がずっと多い額をもらったと聞いて怒るのだ。
(中略)
[その]年はたったひとつの数字を残して、記憶からかき消される。その数字とは、年収の額だ。逃げも隠れもできない最終的な評価の数字・・・。想像してみてほしい。年に一度、神様の前に召しだされて、自分の人間としての値打ちを告げられるとしたら、心穏やかではいられないのではないだろうか。おおまかに言えば、ぼくらはそういう種類の試練を受けているのだった。(後略)
【P.412より引用】
裁定待ちというのは、ほんとうにつらいことだった。ロンドンのトレーディング・フロアでは、誰が経営陣ににらまれているか知る手がかりもなかったが、債券関係者の三分の一が整理の対象になることはわかっていた。
(中略)
ぼくは悩み始めた。くびになったら、どうすればいいのか?そのうち、逆の悩みが頭をもたげてきた。くびにならなかったら、どうすればいいのか?なんだか急に、ソロモン・ブラザーズを離れることが、たいした冒険にも思えなくなってきた。各課の課長が、部下を貢献度順に並べたリストを提出していた。ロンドンの取締役たちは、(中略)リストの下位のほうから切り落とす作業にかかった。(後略)
【P.413より引用】
[10月16日(金)]夜半過ぎ、百年ぶりという大ハリケーンがロンドンを直撃した。
(中略)
トレーディング・フロアには明かりがなかった。ほとんどの社員が、自分の机のまわりをうろついていた。取締役から呼び出しの電話がかかり、ひとりひとり、運命を告げられにい行く。
気がめいるのは、収入を失うことではなく、敗残者のように見られることだった。過去の常識はずれの稼ぎっぷりを、ぼくらの両足みたいに、大切なだけでなく不可欠な体の一部だと感じていた。くびになった人間は、みんな手か足をなくしたように見え、まわりにいる人間を赤面させた。事態を深刻に受け止めて、待機しているあいだに、人材スカウト業者に電話をかける人間も出てきた。何人かはもっと巧妙に立ち回った。(後略)
また以上のような崩壊のストーリーだけではなく、現在の「レバレッジ・バブル崩壊」の根源ともいえる財務レバレッジがどのようにして世界市場に広がっていったか、モーゲージを世の中に広めた仕掛け人は誰だったのか当時のセルサイドのセールスの立場から歴史をおってわかります。
【P.181より引用】
ラニエーリ一家が意図していたのは、合衆国政府のお墨付きが得られしだい、全額[住宅抵当]ローンを債券化することだった。そうすれば、実質的には政府債券として、ソロモンの顧客である機関投資家に売ることができる。その目的に向けて、部分的にはラニエーリの粘り強いロビー活動の成果でもあるのだが、ジニー・メイのほかにふたつの新しい機関が政府内に誕生していた。ジニー・メイのスタンプに該当しないモーゲージを保証してくれる期間だ。連邦住宅金融抵当公社(フレディマック)と連邦国民抵当協会(ファニーメイ)だ、(後略)。
【P.383より引用】
[ジャンク・ボンドが人気商品となり、組成・供給が間に合わない状況下で]ミルケンは、安定度のごく高い企業の社債をジャンクに変えてしまう方法を編み出した。相手の資産をかたにして、その企業を買収するのだ。(中略)ジャンクは誰も手を出したがらないから安い、という当初の前提は、とっくに消し飛んでしまった。今では、需要が自然の供給を上回っている。(中略)ミルケンとドレクセルの幹部たちは、絶好の解決策を思いついた。過小評価されている企業を乗っ取る資金を、ジャンク・ボンドで調達すればいいのではないか。(中略)大きな企業をひとつ買収すれば、数億ドルぶんのジャンク・ボンドを生み出すことができる。
本書はサブプライム問題やCDSの崩壊など知りえない数十年前に書かれた本ですが、上記のような動機で、LBOが広まっていったとは、そもそもの出発点が、
“The greed is good. Greed is right. Greed works. Greed clarifies, cuts through and catches the essence of the evolutionary spirit.”
だったのですね。
P.S.
加筆修正してAmazonにレビューしときました。