勝間さんと楽天の投資判断に関する記事が見受けられますが、何が本当で何が本当でないか、
真実を書いた記事が少ないように思います。(「勝間和代の隠したい過去を検証」など。)
そこで、リアルタイムでその経緯を観察していた者として、ちょっとだけ真実をメモっておこうと思います。
関係者ではないので、検証可能な事実に基づき書いています。

なお、予め断っておくと、私は勝間さんの信者でもアンチでもなく、また彼女の華麗な経歴や努力には、賞賛を惜しまない者です。
株式投資に0敗100勝などありえません。、一度の二度の失敗は必然的に経験するもので、辛酸をなめる思いを積み重ねながら、凌ぎを削る業界だということを念頭に置いた上で以下をお読みいただければと思います。

【要点整理】
①契機となったのは、巷で言われているように、2006年9月12日の楽天(4755)のUnderweightのレポートではない。
②問題となったのは、2006年10月4日の楽天(4755)のレポートである。
 『債権流動化分の費用発生に伴い、我々の当期営業利益予想を下方修正。』というタイトルで始まる同レポートの概要は以下のようなものであった。

楽天は前期に楽天KCを買収したため、B/Sが膨らんだ。
そこで同社は、B/Sを軽くするために、2006/6末時点までで1,940億円の債権流動化を行った。
ところが楽天は証券化を途中で辞めたため期ズレが発生し、前期に80億円の益が生じたが、
今期には60~70億前後の費用が生じる、との説明を行った。勝間さんはモデルに当該費用を見積もっていなかった。

勝間さん思うに、債権流動化は、債権を償却期間にわたって費用化するスキームであり、本来会計的には中立。
期ずれが生じる会計処理には疑問が生じる。前期の会計処理は妥当だったのか?
根拠法規や仕訳、利益の算出方法や会計士のコメント、類似企業(クレディセゾン)の証券化の例や
証券化専門家へのヒアリング等を踏まえても、会計処理は不透明であり、疑問が残る。
またその根拠を精査するためには、会社側(楽天)からの情報開示が不足している。

【当時の世相をよりよく理解するために】
勝間さんが以上のレポートを書いた、2006年当時のことを想い起こしてみると、2006年1月16日に、東京地検特捜部がライブドアを証取法違反で強制捜査し、翌17日からは「ライブドアショック」に株式市場は暴落。23日にはホリエモン逮捕。4月14日にはライブドア上場廃止。以上の流れから、IT企業を虚業となじりヒルズ族を拝金主義者と叩く世論がマスコミの主導で起きた。

続く6月5日にはMACコンサルティング(通称:村上ファンド)代表の村上世彰氏が逮捕され、今度はアクティビストやファンド資本主義に対する批判の世論が高まった。

このような世相を背景に、「六本木ヒルズのIT企業」は「非常に叩きやすいターゲット」となっていた。
週刊新潮の9月7日号は、「水面下で捜査が進む『楽天』三木谷社長の『Xデー』」という特集記事を掲載、また10月5日にも同様の記事を書いており、これに対して楽天は、名誉毀損で12億6861万円の損賠請求と謝罪広告を求め提訴したりと(←訴状に貼る印紙だけでも356万!)、失墜した評判を守るべく本気で戦っていた。

また、2005年2月にはライブドアがニッポン放送株(真の目的は同社が筆頭株主であるフジテレビの支配権)を35%取得、また2005年10月には楽天がTBS株を19%まで取得するなど、ヒルズの新興IT企業と既存のマスコミとの間で緊張が高まっていた。フジTV系ドラマ『ヒルズに恋して』のタイトルが『恋に落ちたら』(※当時のIT企業の隆盛を伝える必見の傑作です!)に変更されるなど、マスコミとの攻防戦が繰り広げられており、上記の逮捕劇を背景に、いっきにマスコミ側がライブドア&楽天叩きに動いたという背景もある。

8月30日、週刊新潮の早刷りが市場関係者に出回り楽天株はストップ安、
→10月5日にも週刊新潮では謝罪広告など誠意ある対応が取られなかったため楽天が訴訟に踏み切った。

9月14日には、勝間さんの9月12日レポート(「懸念していたバランスシート/リスクが顕在化。楽天KCで貸倒引当金を追加計上予定。」)により、楽天株は前日比-8.03%下落のストップ安となり、終値45,800円と年初来安値を更新した。

10月4日、上記の「債権流動化の会計処理に疑問」の勝間レポートがリリースされる。
→この勝間レポートに対して、楽天側からJPMに「謝罪レポートなど誠意ある対応が取られなかった場合は訴訟に踏み切る」という内容の強い抗議が行われた。

10月6日、JPMから、「10月4日付レポートに関する訂正について」という異例の謝罪レポートが出る。
ほぼ全面的に楽天側の抗議を受け入れ、「当該レポートの中で、当社の理解不足があったこと、および不適切な表現があったため、以下訂正を行う。」という内容であった。
訂正内容は主に以下の三点。
 ①類似事案として挙げたクレディセゾンの債権流動化で売却益が出ているのを見過ごしていた。
  また一社のみの事例を一般化して楽天について論じた。
 ②「会社側の開示が不十分だった」という事実は実際には無かった。
  楽天IR担当者から、根拠となる会計基準や仕訳事例について、詳細な説明対応を受けていた。
 ③前期の会計処理の議論において事実誤認があった。

10月12日、楽天のカバレッジが削除される(!!!!)
「当社調査部で検討した結果、現時点で当社は同社について深い理解に基づいた調査・分析を行える立場にはないと判断した。そのため、10月12日付で楽天をカバレッジから削除する。これに伴い、JPモルガンの業績予想、レーティング、目標株価などの情報はすべて無効となる。」

楽天の株価 (Click to zoom)
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【まとめ】
会計士出身の証券アナリストだったため、勝間さんは見解に自信があったのかもしれないが、
会計処理で戦ったのがまずかった。EPSや成長性(マルチプル)の
ような曖昧な領域でリスクを取るべきだった。
また時期も悪かった。株価がストップする中、楽天が新潮など記事に非常に敏感な時期であった。

特に事業会社の債権流動化の背後には、メリルリンチ等のアレンジャーとなった投資銀行の証券化チーム、
そして大手渉外法律事務所、監査法人がいるわけで、ガチンコで戦ったら負けは見えている。
当時は新興IT企業が世相的にも悪玉視され叩きやすく(いつぞやのノンバンク業界のように)、
また株価も容易にストップ安になる市況だったので、売り推奨は株価的には有効にワークしていたと思われるが、
叩きすぎると「窮鼠猫を噛む」ではないが、必死の反攻を喰らってしまう。

年初より株式市場が暴落する中、2006年は株式部門よりも債券部門の存在感が大きかった。
また証券会社のIBサイドとしては、M&Aを頻繁にする楽天は顧客にしたいし、債権流動化ディールも欲しい。
そんな中で事業会社による訴訟リスクを取ってまで、事実誤認を含んだレポートを書いたアナリストを守る意義はない、
とのビジネス的な判断もあったのではないか?
(間違ったこと書いているレポートなんか大量にありますが、免責文言も大量ですよねww)

かくして会社に切られたアナリストは、自らの足で道を切り拓き、時代の寵児になった・・・。
(ちなみに、勝間さんのレポートをサインオフした上司も引責で一緒に切られた。)

・・・似たような話、他にも沢山ありますよねっ!

By admin

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