入社以来、毎年の健康診断を六本木ヒルズクリニックで受けている。かれこれ五回目になるが、毎回ひっかかる項目があって実は気になっていた。

コレステロールである。

毎回、「脂質系について、精密検査を要しますので、内科の受診をお願いします」と出ていたが、若気の至り、一度も精密検査に赴いたことが無かった。

しかし着実に三十の足音も聞こえてくるお年頃、自身の健康維持に気を使い始めているので内科を受診する決意を固めた。意を決してクリニックに予約の電話をすると、血液検査を要する可能性があるので、食後三時間以上経ってから来てくださいとおっしゃる。

私は、素直にその言葉に従い、本日の日本株式市場が大引けを迎え、フロアも落ち着いてきた午後四時、内科に行った。

Dr. 「本日はどうしましたか?」
私 「あの、毎回定期検査でコレステロールがひっかかるのですが。」
「そのですね、コレステロールが低すぎるのですが。」
「かれこれ五年間、要注意が出続けてます。」

(D2=異常、精密検査を要します)

Dr.は、健康診断表を凝視したのちしばし沈黙し、慎重に言葉を選びながら私に伝えた。
「その・・・この診断書を見ますと、要注意・再検査となっておりますが・・・医学的にも統計的にも・・・コレステロールが低すぎて体に悪いということが証明されているという事実はございません。」

「ここで要注意になっています、LDL、いわゆる悪玉コレステロールが高すぎると、心筋梗塞や狭心症など冠動脈疾患のリスクが高いので問題となるのですが、低い場合には、むしろとても健康な状態といえると思います。」

「要注意と出てしまうのは、標準偏差の範囲に無いだけであって、60前後、あなたの数値の場合は何も問題ないでしょう。」

「五年間出続けているということは、一時的な物ではなく、おそらく本日、血液検査をしても、同じ結果が出ることでしょう。」

「他になにか気になる所はございますか?」

60秒で診察は終わった。そして会計で待つこと10分。
自分の名前を呼ばれて会計にいくと、

「本日のお支払いはございません。」

・・・ありがとうございました。

(全一話・完)

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